口紅*



 何も持っていないわたしを「惨めだ」と言う人もいる。
 何色にも染まるわたしを「愚かだ」と言う人もいる。

「ある狭い世界のある日の夕暮れ。
 ある一人の男が、のらりくらりと散歩をしていた。
 彼のゆく道には、無数の落ち葉が敷かれている。
 潤いを失い、風に吹かれ、生命力に富む子供らに踏まれる枯れ葉たち。
 男もまた、その上を踏みゆく子供の一人である。

 彼は立ち止まり、身を屈めた。
 目と手を忙しなく動かし、なにやら品定めをしている様子。
 彼はこう思っていた。

 とびっきり醜い一枚を選んで持ち帰ろう。
 それから何時間、何日もかけて、彼はさがし続けた。
 さがしてもさがしても、見つからなかった。

 そして、彼は今日も歩く。
 うつくしき枯れ葉たちを踏みしめながら」

 ――そんな話をして、わたしに口付ける人もいる。


*'12/12/04 「くちづけ」 改