タマイラズ



あるところに、四方を海に囲まれた小さな島がありました。
その島には、その島にしか生息しないという珍しい鳥がいました。

島民たちは、主に魚などをとって暮らしています。
魚があまりとれないときには、山で山菜をとったり、鳥や獣を狩ることもあります。

あるとき、一人の若い島民が猟銃を持って山に入りました。
そこで、これまでに見たこともないような、とても美しい鳥を見つけました。
彼は興奮しながら、静かに銃をかまえました。
そして、手を震わせながら、木の枝にとまる鳥めがけて撃ちました。
ぱん! という音とともに放たれた鉛玉は、ものの見事に外れました。
彼はがっかりしながら銃をおろしました。
しかしその鳥は、木の上からまっさかさまに落ちていきました。
大地に横たわる鳥に、彼は注意深く、そろりそろりと歩み寄りました。
いっこうに動く気配のない鳥は、ついに彼の手のなかにおさまりました。

青年は大喜びで、この美しい鳥を持ち帰りました。
山を駆け下りながら彼は思いました。
祖父がこの鳥を見たら、きっと祖父の病気も治るだろう。

しかし、彼の期待は小さくしぼんでいきました。
祖父の話によると、この鳥の名は「タマイラズ」というそうだ。
とても臆病な鳥で、大きな音を聞いただけで死んでしまうという。
猟銃に鉛玉をこめずとも、火薬のはぜる音だけで撃ち落せてしまう。
鉛玉がいらない、玉いらず、というのが名前の由来らしい。
そして、寿命が短い上に、警戒心が強いため、めったに人前に姿を見せない。
いつしか、「その姿を見た者には、幸福が訪れる」といわれるようになった。
青年は知らなかったとはいえ、そんな鳥を死なせてしまったのだった。
さらには、すでに息のないこの鳥を、祖父にまで見せてしまったのだ。
それが何を意味するのかは、祖父にもわからないという。

青年の心に、不安ばかりがふくらんでいきます。
自分のせいで、祖父を死に追いやってしまうかもしれない。
この先、わが身に、どれだけの不幸が訪れるだろう。
彼は年若くして、夢が芽吹く前に散り、希望が枯れていくのを感じました。

「ごめんなさい」
彼の口からこぼれ落ちたのは、そんな言葉でした。
「ごめんなさい」
彼はあらためて、祖父に向かって言いました。
祖父はそんな彼を見て、にっこりと微笑みました。
そして、「ありがとう」と言いました。

そのとき、もぞもぞっと何かが動くのを感じました。
あの美しい鳥がその身を起こし、周囲の様子をうかがっています。
「じいちゃん」
青年は驚きをおさえながら、小さな声で言いました。
祖父はゆったりとうなずき、目を閉じました。
青年はその鳥が動きまわる姿を、何も言わずに見守りました。
やがて、部屋の窓から飛び立っていくのを、ただ静かに見送りました。

窓の外、空の下では、春の花が咲き始めています。


Photo by Konji Nogitsune